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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1673号 判決 1992年11月10日

甲事件控訴人・乙事件附帯被控訴人・丙事件控訴人

石川さき(以下「控訴人さき」という。)

丙事件控訴人

石川良一(以下「控訴人良一」という。)

丙事件控訴人

石川竜二(以下「控訴人竜二」という。)

右三名訴訟代理人弁護士

原山庫佳

薦田哲

高橋裕次郎

右複代理人弁護士

大谷郁夫

甲事件被控訴人・乙事件附帯控訴人・丙事件被控訴人

弥生コーポ管理組合

(以下「被控訴人組合」という。)

右代表者理事長

坂本茂樹

甲事件被控訴人

永田好男(以下「被控訴人永田」という。)

曽我照栄(以下「被控訴人曽我」という。)

脇清志(以下「被控訴人脇」という。)

片倉章

右五名訴訟代理人弁護士

藤田康幸

澤井英久

主文

一  甲事件及び乙事件の原判決を次のように変更する。

1  控訴人さきの被控訴人らに対する東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一四四二八号駐車場所有権確認等請求事件の判決主文第三項による強制執行は、昭和五八年一二月二八日から昭和六三年二月末日までの分については一箇月当たり一四万円を超える部分につき、昭和六三年三月一日以降の分については全額につきこれを許さない。

2  被控訴人らは各自控訴人さきに対し、

(一)  三〇三万二三四三円

(二)  一二一九万二二五八円に対する平成元年一〇月二日からその支払済みまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

3  被控訴人らのその余の請求(当審において追加された分を含む。)及び控訴人さきのその余の反訴請求をいずれも棄却する。

二  丙事件の原判決を次のように変更する。

1  被控訴人組合は控訴人らに対し、別紙第二物件目録記載(二)の建物を明け渡し、かつ、平成三年七月一七日から右明渡済みに至るまで、控訴人さきに対し、一箇月一万円の割合による金員、控訴人良一及び控訴人竜二に対し、一箇月各五〇〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被控訴人組合は控訴人さきに対し、一一八万五一六一円、控訴人良一及び控訴人竜二に対し、各五九万二五八〇円並びにそれぞれこれに対する平成三年七月一七日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

四  本件につき東京地方裁判所が昭和六三年二月一七日にした強制執行停止決定は、本判決主文第一項1において強制執行を許さないものとした限度においてこれを認可する。

五  本判決主文第一項2、第二項1及び2並びに前項は仮に執行することができる。

事実

第一  申立て

一  甲事件

(控訴人さき)

1 原判決中控訴人さきの敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3 被控訴人らは、各自控訴人さきに対し、

(一) 三五七万八三三三円

(二) 一五二〇万円に対する平成元年一〇月二日から右元本の支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5 第3項につき仮執行の宣言

(被控訴人ら)

本件控訴を棄却する。

二  乙事件

(被控訴人組合)

1 原判決中被控訴人組合の敗訴部分を取り消す。

2 控訴人さきは、被控訴人組合に対し、六四五万円及びこれに対する昭和五六年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 (当審において追加した予備的請求)

(一) 控訴人さきは、被控訴人組合に対し、昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月末日までは一箇月六万円の割合による金員及び同年三月一日から控訴人さきが別紙第一物件目録記載(七)の土地について被控訴人組合の使用に対する妨害を停止するまでは一箇月一〇万五〇〇〇円の割合による金員並びに右各月ごとの金員に対する各翌月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 控訴人さきは、被控訴人組合に対し、昭和五六年九月一日から昭和六三年三月末日までは一箇月六万円の割合による金員及び同年四月一日からは一箇月七万九八一六円の割合による金員並びに右各月ごとの金員に対する各翌月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 控訴人さきは、被控訴人組合に対し、七二万二四七一円及びこれに対する昭和五八年六月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は第一、二審とも控訴人さきの負担とする。

5 第2項及び第3項(一)ないし(三)につき仮執行の宣言

(控訴人さき)

本件附帯控訴及び当審において追加された予備的請求をいずれも棄却する。

三  丙事件

(控訴人ら)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人組合は、控訴人らに対し、別紙第二物件目録記載(二)の建物を明け渡し、かつ、平成三年七月一七日から右明渡済みに至るまで、控訴人さきに対して一箇月二万六七〇〇円、控訴人良一及び控訴人竜二に対して一箇月各一万三三五〇円の各割合による金員を支払え。

3 被控訴人組合は、控訴人さきに対し、金三一六万四三八〇円及びこれに対する平成三年七月一七日から右支払済みに至るまで年五分の割合による金員、控訴人良一及び控訴人竜二に対し各一五八万二一九〇円及びこれらに対する平成三年七月一七日から右支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人組合の負担とする。

5 第2項及び第3項につき仮執行の宣言

(右第2項の明渡し請求部分は、当審において拡張された請求である。)

(被控訴人組合)

1 本件控訴及び当審において拡張された請求を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  主張

一  甲乙事件

(本訴請求原因)

1 控訴人さきの被控訴人らに対する債務名義の存在及びその内容である債権の範囲

(一) 控訴人さきは、先に、同人を原告、被控訴人らを被告として、駐車場所有権確認等請求の訴え(東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一四四二八号)を提起した。その請求の要旨は概ね次のとおりである。すなわち、控訴人さきは、別紙第一物件目録記載(一)の建物(以下「本件マンション」という。)の一階部分の一部である、同目録記載(四)の土地(以下「西南部分」という。)上の建物部分及び同目録記載(五)の建物(以下「本件駐車場」といい、これと前記西南部分上の建物部分とを合わせた部分が別紙第一物件目録記載(二)の建物である。)は同控訴人の所有であり、また、西南部分については、同控訴人が専用使用権を有していると主張して、被控訴人組合との間において、控訴人さきがこれらの物について所有権を有することの確認及び西南部分について専用使用権を有することの確認をそれぞれ求めるとともに、被控訴人らに対して、右建物の所有権に基づいて、被控訴人らが設置した同目録記載(三)の鉄柱ゲート(以下「本件鉄柱ゲート」という。)の撤去と控訴人さきが右建物を使用収益することの妨害の差止めを求め、さらに、被控訴人らの右不法行為に基づく損害賠償として、控訴人らに対し、各自一箇月二〇万円の割合による金員の支払を求めた。

右事件の第一審裁判所は、昭和五八年一二月二七日、口頭弁論を終結し、昭和五九年三月二七日、次のとおりの判決を言い渡した。すなわち、控訴人さきが所有権の確認を求める建物のうち、本件駐車場は控訴人さきの所有であることが認められるが、西南部分上に本件マンションの一階部分の一部が存在するとは認めることができず、また、その敷地である西南部分について控訴人さきが専用使用権を有しているとも認められないと判示し、結局、控訴人さきの前記各請求のうち、(1)被控訴人組合と控訴人さきとの間において、控訴人さきが本件駐車場の所有権を有することの確認、(2)被控訴人らに対する本件鉄柱ゲートの撤去請求及び控訴人さきが本件駐車場の使用収益をすることの妨害の差止め請求、(3)被控訴人らに対する昭和五六年一一月一日から右妨害の停止までの各自一箇月二〇万円の割合による金員の支払請求をそれぞれ認容し、その余の請求については、これを棄却した。

被控訴人らは、右判決に対して控訴を提起したが、昭和六三年二月一五日、右控訴を取り下げ、右第一審判決が確定するに至った(以下右判決を「本件確定判決」という。)。

(二) 被控訴人らは、東京地方裁判所昭和五六年(ヨ)第七八九七号妨害物排除・使用妨害禁止仮処分決定の執行が行われた昭和五六年一二月二二日をもって本件駐車場のうち三台分についての妨害を停止し、その後昭和六三年二月末日をもって本件駐車場の全部について使用妨害を停止した。

(三) 本件確定判決の命ずる一箇月二〇万円の割合による損害賠償債務は、自動車一台分につき一箇月二万円の割合による損害金が生ずるものとして算出されたものであるから、前記のとおり三台分についての妨害を止めた後である昭和五七年一月分以降は、被控訴人らが控訴人さきに支払うべき損害賠償債務の額は一箇月一四万円の割合による金員となった。

仮に、本件請求異議の事由として本件確定判決の第一審の口頭弁論の終結以前の事由を主張することが許されないとしても、右弁論の終結の日である昭和五八年一二月二七日以降は、被控訴人らは右三台分については妨害を停止しているのであるから、少なくとも、同日以降の分について本件確定判決によって強制執行が許されるのは、一箇月一四万円の割合による支払の限度に止められべきである。

(四) したがって、被控訴人らが本件確定判決によって支払を命ぜられた昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月一六日(後記3(一)記載のとおり被控訴人組合が第一回の相殺の意思表示をした日)までの損害金元本は合計一〇五〇万円であり、また、これに対する遅延損害金は合計一六五万一八八四円である。

2 不当利得返還請求

控訴人さきは、昭和四五年十二月から昭和五六年八月まで本件マンションの管理を担当したが、区分所有者から徴収した管理費を、管理と無関係の個人的な支出に充てるなどして、少なくとも毎年六〇万円を不当に利得した。

したがって、控訴人さきは、被控訴人組合に対し、右の間の不当利得として六四五万円及びこれに対する昭和五六年九月一日から右支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による利息を返還すべき義務がある。

3 被控訴人組合の控訴人さきに対する債権の発生

ところで、被控訴人組合は、控訴人さきに対し、昭和六三年二月一六日現在、次のような債権を有している。

(一) 西南部分等の使用損害金

控訴人さきは、本件駐車場に駐車させている自動車のうち六台については、それぞれのその一部を、被控訴人組合が管理する別紙第一物件目録(六)記載の土地(以下「本件敷地」という。)のうちの同目録記載(七)の土地(以下「本件駐車場外敷地」という。)にはみだして駐車させているから、控訴人さきは、被控訴人組合に対し、毎月の駐車料金の半額相当額を右はみだして駐車させている部分の使用損害金として支払うべき義務がある。

したがって、控訴人さきは、被控訴人組合に対し、右の使用損害金として、昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月末日までは一箇月六万円(一台当たり一万円の割合)、同年三月以降は一箇月一〇万五〇〇〇円(一台当たり一万七五〇〇円)の各割合による金員並びに右各金員に対する各支払日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(二) 管理費及び積立金の支払義務

控訴人さきは、本件マンションの一部である別紙第二物件目録(四)記載の建物(以下「本件倉庫」という。)及び本件駐車場を所有している。

本件マンションの区分所有者は、昭和五六年八月二九日開催の被控訴人組合の議決に基づき、同年九月一日から昭和六三年四月一日までは、被控訴人組合に対し、管理費及び積立金として、住宅一戸当たり一箇月一万五〇〇〇円を支払う義務があるところ、本件倉庫は住宅一戸分、本件駐車場は住宅三戸分に相当する。したがって、控訴人さきは、昭和五六年九月一日から昭和六三年三月末日までの間、本件倉庫及び本件駐車場の管理費及び積立金として、被控訴人組合に対し、毎月末日限り、一箇月合計六万円(本件倉庫につき一万五〇〇〇円、本件駐車場につき四万五〇〇〇円)の割合による金員および右各金員に対する各支払日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

また、昭和六三年二月一三日に開催された被控訴人組合の総会において、右の管理費及び積立金は、昭和六三年四月一日から、各専有部分の面積一平方メートル当たり二九〇円と改められた。したがって、控訴人さきは、右同日以降は、被控訴人組合に対し、毎月末日限り、本件倉庫(51.54平方メートル)及び本件駐車場(223.69平方メートル)についての管理費及び積立金として、一箇月七万九八一六円(本件倉庫につき一万四九四六円、本件駐車場につき六万四八七〇円)の割合による金員及び右各金員に対する各支払日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(三) 修繕費用の負担分

昭和五七年一〇月二一日開催の被控訴人組合の総会において、本件マンションの区分所有者は、昭和五八年四月に行われた本件マンションの修繕費用の一部である五〇〇万〇八六〇円につき、各人の専用部分の面積に応じた金員を負担することと決議された。

したがって、本件倉庫および本件駐車場の区分所有者である控訴人さきは、被控訴人組合に対し、右の修繕費用の負担分として、右の負担金について全体の専有部分の面積に対する右各専有部分を合計した面積の割合(1557.70分の225.04)に応じて算出された七二万二四七一円及びこれに対する昭和五八年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

4 相殺の意思表示

(一) 被控訴人組合は、昭和六三年二月十六日到達の内容証明郵便で、被控訴人組合の控訴人さきに対する同日までの前記3(一)ないし(三)及び2記載の債権合計一九九八万九四九七円(その内訳は、使用損害金の元本合計四五〇万円・遅延損害金合計七〇万三一七四円、管理費及び積立金の元本合計四六二万円・遅延損害金合計七四万一一七一円、修繕費の元本合計七二万二四七一円・遅延損害金合計一七万〇一二七円、不当利得の元本合計六四五万円・利息金合計二〇八万二五五四円であり、これらの元本合計は一六二九万二四七一円、損害金及び利息金の合計は三六九万七〇二六円である。)と控訴人さきの被控訴人組合に対する前記1記載の債権合計一二一五万一八八四円(元本合計一〇五〇万円、遅延損害金合計一六五万一八八四円)とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(二) 次いで、被控訴人組合は、平成元年一一月一四日の原審第一七回口頭弁論期日において、前記相殺の日の翌日から右平成元年一一月一四までに発生した被控訴人組合の控訴人さきに対する債権三九五万八二一六円(その内訳は、使用損害金の元本合計二一六万円・遅延損害金合計九万二一七三円、管理費及び積立金の元本合計一六三万六五〇四円・遅延損害金合計六万九五三九円であり、これらの元本合計は三七九万六五〇四円、遅延損害金の合計は一六万一七一二円である。)を同期間に新たに発生した控訴人さきの被控訴人組合に対する債権一五万一九四七円(その内訳は、元本合計一四万円、遅延損害金合計一万一九四七円である。)とを対当額で相殺する旨の意思表示をなした。

5 よって、被控訴人らは、主位的請求として、本件確定判決の主文第三項の執行力の排除を求めるとともに、控訴人さきに対し、前記2記載の債権六四五万円及びこれに対する履行期の後である昭和五六年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

6 仮に、前記4記載の相殺が民法五〇九条の規定によって許されないとして主位的請求が認められないとしても、被控訴人組合は、控訴人さきに対し、予備的に、前記3(一)ないし(三)記載のとおり各債権元本及びこれらに対する各履行期から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(本訴請求原因に対する認否)

1(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、被控訴人らが、昭和五六年一二月二二日をもって三台分についての妨害を止めたことは否認し、その余の事実は認める。

「被控訴人らが昭和五六年一二月二二日からは自動車三台分はその使用を妨害していない。」との被控訴人らの主張は、本件確定判決の口頭弁論終結時である昭和五八年一二月二七日以前の事実に係る主張であるから、右判決の既判力の作用により、これを右の本件確定判決に対する異議事由とすることはできない。

(三) 同(三)の主張は否認する。

「自動車一台分につき二万円で一〇台分の計算による」とされたのは、本件確定判決の理由中において、本件駐車場の使用収益の妨害による損害額の算定の基準として考慮されたものにすぎず、被控訴人らは、本件駐車場の使用収益に対する妨害の全部を停止するまで、本件確定判決に基づき、一箇月二〇万円の割合による金員を支払うべき義務を負っている。

(四) 同(四)の主張は争う。

被控訴人らは本件駐車場の使用収益の妨害を昭和六三年二月末日まで継続したから、被控訴人らは、昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月末日までの間の一箇月二〇万円の割合による損害賠償債務として合計一五二〇万円を支払うべき義務がある。

2 同2のうち、昭和五三年から昭和五五年について、被控訴人組合主張の管理費の徴収をしたことは認め、その余は否認する。

被控訴人らは被分譲者は、本件マンションの分譲を受けるに際し、控訴人さきに対し、同人に本件マンションの管理を委託し、そのための諸費用として一括して管理費として毎月五〇〇〇円(後に六三〇〇円)を支払う旨の管理委託契約を締結した。控訴人さきが、区分所有者から受領した管理費は、右管理委託契約に基づくものである。また、控訴人さきは、右とおり管理費として受領した金員をすべて管理に使用しており、被控訴人組合主張のような余剰は生じていない。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月二九日まで、本件駐車場外敷地を使用していたのは被控訴人ら自身であり、控訴人さきがこれを占有使用したことはない。

そもそも、本件確定判決は、控訴人さきが本件駐車場内に一台につき一箇月二万円の賃料で一〇台程度の自動車を駐車させていたところ、被控訴人組合の使用収益の妨害によりその使用収益ができなくなったとして一箇月二〇万円の割合による損害金支払義務を認めたのであるから、右の一〇台の自動車のうちの六台が本件駐車場からはみでて本件駐車場外敷地を使用しているとするのは、本件確定判決の既判力に抵触するものであって、適法な異議事由とはなり得ない。

(二) 同(二)のうち、控訴人さきが本件倉庫及び本件駐車場の所有者であることは認めるが、その余は否認する。

被控訴人組合は、もともと本件マンションの二階以上の区分所有者のみを対象として設立された任意の団体であり、また、昭和五九年一月一日に建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)が改正された以降も、新たに集会が開かれたり、規約が定められたりすることによって被控訴人組合を区分所有者全体のための管理を行う団体としたこともないから、被控訴人組合の法的性格は、区分所有法三条後段の一部組合にすぎない。したがって、被控訴人組合の組合員でない控訴人さきには、被控訴人組合が定めた管理費等を負担すべき義務はない。

また、本件駐車場や本件倉庫は、控訴人さきにおいて清掃を行ってきたものであり、被控訴人組合による管理の対象からは外されていた。被控訴人ら主張の管理費等は、二階以上の区分所有者のみが使用する共用部分である玄関・ホール・エレベーター・階段・廊下・便所・非常階段等の管理に要するものがほとんどであり、本件駐車場及び倉庫にとっては無関係なものである。したがって、実質的にみても、控訴人さきが、右の費用を負担すべき理由はない。

(三) 同(三)の事実は知らない。仮に修繕が行われたとしても、被告の専有部分とは関係がない。

4 同4(一)および同(二)のうち、被控訴人組合が、昭和六三年二月一六日及び平成元年一一月一四日に、それぞれ、控訴人さきに対し、主張のとおり、相殺の意思表示をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(反訴請求原因)

1 控訴人さきと被控訴人らとの間においては、昭和六三年二月一五日に確定した本件確定判決により、被控訴人らは、同人らが本件駐車場の使用の妨害を停止するまで、控訴人さきに対し、不法行為に基づく損害賠償として、各自一箇月二〇万円の割合による金員を支払うことが命じられている。

2 被控訴人らは、本件駐車場に対する使用の妨害を、昭和六三年二月末日まで継続した。

3 本件確定判決によって支払を命じられた金員は、本件駐車場についての被控訴人らによる所有権侵害による不法行為に基づくものであり、被控訴人らの妨害が存続する間は日々発生し、かつ発生と同時に遅滞に陥るものである。

4 したがって、本件確定判決による各月ごとの損害賠償債務二〇万円は、少なくとも当該月の翌月一日以降はその全部が遅滞に陥っているというべきところ、便宜一箇月分ごとに翌月一日から平成元年一〇月一日までの遅延損害金を算定すると、その合計は三五七万八三三三円となる。

5 よって、被控訴人らは控訴人さきに対し、右損害賠償債務についての昭和五六年一二月一日から昭和六三年一〇月一日までの間の遅延損害金として三五七万八三三三円の支払義務及び右損害賠償債務元本合計一五二〇万円(昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月末日までの合計分)に対する平成元年一〇月二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(反訴請求原因に対する認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、七台分についての妨害の停止時期が控訴人さき主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

3 同3の主張は認める。

4 同4の主張は争う。

(抗弁)

甲事件の請求原因欄に記載のとおり、控訴人さきの被控訴人らに対する本件確定判決に基づく債務及びこれに対する遅延損害金は、被控訴人組合の控訴人さきに対する債権との相殺によって消滅した。

(抗弁に対する認否)

甲事件の請求の原因に対する認否欄記載のとおりである。

二  丙事件

(請求原因)

1 控訴人さきの夫石川實尚(以下「實尚」という。)は、昭和五〇年ころから、別紙第二物件目録記載(二)の建物(以下「一〇一号室」という。)を所有していたが、同人は、昭和五七年六月一二日死亡した。

實尚の相続人は、同人の妻さきと同人の子である良一、竜二らの控訴人ら三名であり、實尚の死亡によって、一〇一号室は、控訴人ら三名の共有(控訴人さきの持分四分の二、控訴人良一及び控訴人竜二の持分各四分の一)となった。

2 被控訴人組合は、昭和五六年九月一日以降、一〇一号室につき占有権原がないことを知りながら、これを占有使用し、同建物の賃料相当額を不当に利得し、控訴人らに同額の損失を与えている。

3 一〇一号室の床面積は、17.67平方メートル(5.34坪)であり、昭和五六年九月一日以降の賃料相当額は一箇月五万三四〇〇円であり、同日から平成三年七月一六日までの賃料相当額合計で六三二万八七六〇円である。

よって、控訴人らは、被控訴人組合に対し、所有権に基づき、一〇一号室の明渡しを求めると共に、不当利得金の返還請求として、前記「第一 申立て」三の2、3項記載のとおりの各金員の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、被控訴人組合が昭和五六年九月一日以降一〇一号室を占有使用していることは認め、その余の事実は否認する。

被控訴人組合は、一〇一号室を本件マンションの管理室として利用する権原があるものと認識していたから、悪意はない。また、一〇一号室は、本件マンションの管理の用に供するために建築されたものであって、一〇一号室から収益をあげることは予定されていなかったものであるから、賃料相当額の損害金が生ずる理由はなく、被控訴人組合において利得が生じたこともない。

3 同3のうち、本件建物の床面積が17.67平方メートルであることは認め、その余の事実は否認する。

(抗弁)

1 實尚は、昭和五六年九月一日ころ、被控訴人に対し、一〇一号室を、本件マンションの管理室として無償で使用することを許諾した。

2 仮に被控訴人組合に利得が生じていたとしても、その利得は現存していない。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実はいずれも否認する。

第三 証拠<省略>

理由

第一甲事件及び乙事件

一本訴請求異議について

1  請求の原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  <書証番号略>及び原審証人溝口寛、当審証人澤井英久の各証言によれば、昭和五六年九月当時、本件駐車場は一台ごとに駐車場所を区画し、一〇台分の駐車場として利用されていたこと、同年一二月二二日控訴人さきらの申立てによる被控訴人組合を相手方とする仮処分命令の執行が行われ、本件駐車場の入口付近に設置されていた鉄柱ゲートが撤去されたが、被控訴人組合は、その機会に、従来控訴人さきやその賃借人らによる利用を拒否し、車の出入りを妨げていた本件駐車場のうち、賃借人が利用していた自動車三台分の部分についての支配を解き、その結果として控訴人さき又はその賃借人においてこれを自動車三台の駐車場として使用することが可能である状態となったことが認められる。<書証番号略>、右の認定、判断を妨げるものではない。

この事実によれば、被控訴人組合による本件駐車場の支配は、遅くとも昭和五七年一月一日以降は自動車三台の駐車を可能とする範囲において消滅し、右の限度において本件確定判決の主文第三項にいう妨害の停止があったものというべきである。なお、成立に争いのない<書証番号略>によれば、本件確定判決に係る訴訟においては、被控訴人らが右の自動車三台分の開放の点についての主張をしなかったことが明らかであるが、右訴訟における主要な争点が本件駐車場の所有権の帰属の点にあったことを考慮すれば、右の主張がなかったことによって、この点についての前記認定が妨げられるものではない。

そして、本件確定判決によれば、本件駐車場は常時駐車場として利用されていたところ、その主文第三項において被控訴人らに支払いを命じた一箇月二〇万円の金額は、本件駐車場には一〇台の自動車の駐車が可能であり、一台当たりの一箇月の駐車料相当額が二万円であることを前提として、その使用の妨害による損害金として算出されたものであるから、このうち三台分の占有が止んだ以上、その後における控訴人さきの損害は、三台分を控除した一四万円に止まるものであることが明らかである。

被控訴人らが昭和六三年二月末日限り本件駐車場の全部について使用の妨害を停止したことは当事者間に争いがない。

そうすると、本件確定判決の第三項は、当該事件の口頭弁論終結の日の翌日である昭和五八年一二月二八日以降昭和六三年二月末日までについては、一箇月当たり一四万円を超える部分に関する限度において、昭和六三年三月一日以降については、その全部につき執行力を有しないものである。

3  被控訴人らは、本件確定判決第三項おいて認容された控訴人さきの被控訴人らに対する債権に対して、控訴人さきに対する反対債権を自働債権とする相殺を主張する。

しかし、控訴人さきの右債権は、被控訴人らの不法行為による損害賠償債権であるから、債務者である被控訴人らは、控訴人さきに対し、反対債権による相殺をもって対抗することができないものである。(民法五〇九条)。したがって、その余の点について検討するまでもなく、被控訴人らの右主張は失当である。

二本訴不当利得金請求について

被控訴人組合は、控訴人さきが昭和四五年一二月から昭和五六年八月までの間において区分所有者から徴収した本件マンションの管理費のうちから六四五万円を控訴人さきの個人的な支出に充てたと主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。そして、仮に控訴人さきにそのような利得があったとしても、当該管理費を支払ったのは各区分所有者であって被控訴人組合ではなく、また、被控訴人組合が右の期間における管理費について何らかの負担をしたことを認めるに足りる証拠もないから、控訴人さきの利得につき被控訴人組合に損失があったということはできない。

そうすると、いずれの点からしても被控訴人組合の不当利得金の請求は理由がない。

三本訴予備的請求について

1  西南部分等の使用損害金の請求について

右請求は、控訴人さきが、昭和五九年一一月一日から現在まで、被控訴人らが本件マンションの敷地として同控訴人から賃借中の本件駐車場外敷地を、同控訴人において権原なく占有しているとして、その使用損害金の支払を求めるのである。

原審における被控訴人組合代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる<書証番号略>、右代表者尋問の結果、原審証人石川竜二、同溝口寛、当審証人澤井英久の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、昭和六三年三月一日以降現在に至るまでの間、控訴人さきが、同人の管理のもとに本件駐車場に九台の車を駐車させて一台当たり三万五〇〇〇円の駐車料収入を得ていること、そのうちの五台の車体が本件駐車場外敷地(二台については別紙図面(二)のA部分、三台については同図面のC部分)にはみ出して駐車されていることが認められる。なお、控訴人さきが、右の期間にそれ以上の台数の自動車を駐車させていたこと及び昭和五六年一一月一日から昭和六三年二月末日までの間に本件駐車場外敷地を現実に占有使用していたことを認めるに足りる証拠はない。

また、成立に争いがない<書証番号略>及び当審証人澤井英久の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件マンションの区分所有者らは、控訴人さきから各区分所有建物の分譲を受けるに際し、本件駐車場外敷地を含めた本件敷地全体を、その所有者である控訴人さきから、本件マンション及び、その共同設備の敷地として利用する目的で賃借したこと、右賃借権は、本件マンションの区分所有権を有する者全員の準共有であること、昭和五七年ころから、被控訴人組合を除く他の被控訴人らと控訴人さきとの間において、右の賃貸借契約に基づく賃料の額についての紛争が生じ、東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第六三三六号事件の判決によって各区分所有者らについての具体的な賃料額が定められることとなったが、その際には、控訴人さきが本件駐車場から駐車料を徴収して収益をあげていることなどが考慮された結果、本件敷地の固定資産税額の倍額を本件マンションの区分所有建物の総専有面積に対する区分所有者の各専有面積割合で接分した額が、当該区分所有者の具体的な賃料として定められたこと、本件駐車場外敷地は、その位置形状からして、それだけでは独立に駐車場等として利用することは困難であること、本件駐車場外敷地には、本件マンションのためのさしたる共同設備はなく、控訴人さきが駐車場使用契約を結んだ自動車をはみ出して駐車させることによって、本件マンション及び共同設備の敷地としての利用に特段の支障は生じていないこと、右の被控訴人らは本件マンションに区分所有建物を取得して以降昭和五六年八月ころまで、それぞれ、控訴人さきとの間に駐車料使用契約を締結し、賃料を支払って自ら本件駐車場を使用してきたが、その間、車体の一部が本件駐車場外敷地にまではみ出すことについて苦情等を述べたことがなかったこと、本件建物の区分所有者らの方でも、別紙図面(二)のC部分の南側に自転車置き場を設け、その出入りのために本件駐車場を使用していることの各事実がそれぞれ認められる。

これらの各事実によれば、本件駐車場に駐車されている自動車の車体の一部が本件駐車場外敷地にはみ出していることにより、被控訴人組合の同土地部分に対する管理権限が侵害されているとまでは認め難いばかりではなく、これによって敷地の賃借権者ではない被控訴人組合に何らかの損害が生じたものと認めることもできない。そして、他に、被控訴人組合の使用損害金請求の根拠とすべき事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被控訴人組合の本件駐車場外敷地に関する使用損害金請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

2  管理費及び積立金請求並びに修繕費用の請求について

(一) 右の各請求は、いずれも管理費及び積立金並びに修繕費用についての被控訴人組合の決議の結果に控訴人さきが拘束されることを前提としたものであるところ、控訴人さきは、被控訴人組合は本件マンションの一部の区分所有者が任意に設立した団体にすぎず、これに加入していない控訴人さきが被控訴人組合の決議に拘束される理由はないと主張するので、まず、この点について判断する。

<書証番号略>、原審証人溝口寛、同石川竜二、当審証人澤井英久の各証言、原審における被控訴人組合代表者尋問及び当審における控訴人石川さき本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件マンションは、控訴人さきが、昭和四五年一二月ころ建築した鉄筋コンクリート造陸屋根六階建の建物であり、昭和五六年八月当時、その一階部分には、控訴人さき所有の本件駐車場、本件倉庫、實尚所有の一〇一号室、戸松顯二所有の一〇二号室の合計四箇の専有部分が存在し、二階から六階には控訴人さきの分譲に係る合計二五戸の区分所有建物(いずれも居宅)が存在していた。

尚、被控訴人永田、同曽我及び同脇らは、右の一階の各専有部分を含む別紙第二物件目録記載(一)の建物部分は共用部分の一部であると主張して、控訴人さきらを被告として、同被控訴人らが右建物部分について共有持分権を有することの確認及び一階の各専有部分(本件駐車場を除く。)について控訴人さきらの行った保存登記の抹消等を求める訴え(東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第三三八号事件)を提起し、また、控訴人さきが被控訴人らを被告として、本件駐車場の所有権が控訴人さきにあることの確認等を求めた前記昭和五六年(ワ)第一四四二八号事件においても、本件駐車場は共用部分であるとして、控訴人さきの主張を争ったが、いずれも第一審において敗訴し、その後、昭和六三年一二月一五日、被控訴人らがこれらの控訴を取り下げたことによって、それぞれ右の第一審判決が確定したものである。

(2)  控訴人さきから各区分所有建物の分譲を受けた二階以上の二五戸の各区分所有者らは、昭和五六年八月ころまでは、控訴人さきに本件マンションの管理を委ねていたが、その後、控訴人さきの管理の内容に不満を持つ区分所有者の呼び掛けによって、二階以上の区分所有者ら二五名が、昭和五六年八月二九日、自主的に創立総会を開いて、「弥生コーポ管理組合規約」(以下「管理組合規約」という。)を定め、理事長ほかの役員を選任して、管理組合を結成し、以後は、自主的に管理を行うことを決定し、各組合員から一箇月当たり一万円の管理費と五〇〇〇円の積立金を徴収することを決定した。

右の規約には「管理組合は弥生コーポの区分所有者全員により構成する」(三条)と規定されているが、右設立当時、被控訴人組合設立の発起人らは、前記の一階の各専有部分が控訴人さきらの所有に属することを認めず、右規約上も、本件駐車場、一〇一号室及び本件倉庫は、共用部分として被控訴人組合の管理の対象となるものと規定する(七条3項)など、当初から、一階部分の区分所有者らの参加を認めておらず、他方、控訴人や實尚及び戸松らにおいても、同組合に参加する意思を示したことはなかった。

(3)  その後、實尚が、昭和五七年六月一二日死亡し、一〇一号室の区分所有権は、妻である控訴人さき、子である同良一及び同竜二の三名が法定相続分に応じて相続した。

(4)  被控訴人組合は、昭和五八年三月一日から同年四月中旬ころにかけて、業者に委託して、本件マンションの外装の補修及び手すりの補修、塗装、防水工事等の補修工事を行い、その費用として約一二〇〇万円を支出したが、その費用については、昭和五七年一〇月二一日開催の総会で、内五〇〇万円は各組合員がその専有面積に応じて接分して出捐し、残額については銀行から借り入れて、その後の管理費の中から毎月一〇万円宛返済してゆくことと決議された。

右の修繕工事の中には、控訴人さきの専有部分である本件駐車場の舗装工事、一〇一号室の内装及びクーラーの取り付け工事なども含まれていたが、当時、被控訴人組合はこれらは共用部分であるとの立場をとり、控訴人さきらの区分所有権を否定していたため、同控訴人らに対して、右修繕について相談したり、費用の負担を求めたことはなかった。

(5)  その後、昭和五九年一月一日、建物の区分所有等に関する法律及び不動産登記法の一部を改正する法律(昭和五八年法律第五一号。以下「改正法」という。)が施行され、区分所有者は、当然に、全員、建物及びその敷地及び附属建物の管理を行うために団体を構成するものとされることとなった(区分所有法三条)が、右改正後も、被控訴人組合の運営は専ら二階以上に区分所有建物を有する者のみで行われ、戸松及び控訴人さきら一階部分の区分所有者に対しては、総会の招集が通知されたこともなかった。

右のような取扱いは、昭和五九年三月二七日に前記東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一四四二八号事件の第一審判決が、次いで同年六月二七日に同裁判所昭和五七年(ワ)第三三八号事件の第一審判決が相次いで言い渡され、本件駐車場及び一〇一号室等が被控訴人らの共有部分である旨の主張が相次いで排斥された後も同様であった。

(6)  被控訴人らは、昭和六三年二月一三日開催の総会で、それまで各区分所有者につき一律に定めていた管理費の額を、同年四月一日から専有面積に応じて徴収することに変更することを決議し、次いで、その二日後の同月一五日、被控訴人らは、前記(5)掲記の各事件の控訴を取り下げた。

(7)  その後、平成元年一月に至り、控訴人さきに対して、初めて、被控訴人組合の総会への招集が通知された。

(二)  以上のとおり、被控訴人組合は、当初から本件マンションの二階部分以上の区分所有者のみを構成員として設立され、運営されてきた団体であり、昭和五九年一月一日の改正法施行の当時も、一階の区分所有者である控訴人さきら四名がこれに参加したり、被控訴人組合から組合員として取り扱われたことはなかったものと認められる。

したがって、被控訴人組合の規約及び議決が、右改正法施行以前において、その構成員でない控訴人さきを拘束する理由がないのはもとより、改正法施行後においても、一部の区分所有者のみによって構成され、運営されてきた被控訴人組合の規約及びその議決が被控訴人組合の構成員でない控訴人さきを拘束する理由はない。

もっとも、被控訴人らが、控訴人さきを被控訴人組合の組合員として取り扱わなかったのは、被控訴人らが本件マンションの一階部分を共用部分であると考え、前述のとおり、控訴人さきとの間に紛争が生じていたためであることは前記の経緯から容易に窺われるところであるが、そうであるからといって、現に控訴人さきら一階の各専有部分の所有者らが参加しないまま設立され、これらの区分所有者を除外して運営されてきた被控訴人組合の規約及びその議決を、区分所有者全員によって構成された組合によるものと同視することはできない。

(三) したがって、被控訴人組合の総会の議決に基づき、控訴人さきに対して、管理費及び積立金並びに修繕費用の負担金の支払を求める被控訴人組合の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

四反訴請求について

1  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2  本件確定判決の主文第三項の支払義務は、建物の継続的な占有による不法行為に基づくものであるところ、このような継続的な不法行為による損害賠償債務においては、債務者は、その発生と同時に遅滞に陥るものというべきであるから、被控訴人らは、不法行為があった月の損害賠償債務の全額につき、遅くとも翌月一日から遅滞に陥り、その支払いが済むまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものである。

ところで、前認定のように、被控訴人らが本件駐車場を不法に占有したことによって負った損害賠償の額は、昭和五六年一一月一日から昭和五八年一二月二七日までは一箇月当たり二〇万円、同年一二月二八日から昭和六三年二月末日までは同一四万円である。これに対する、被控訴人らが支払うべき遅延損害賠償金は、昭和五六年一二月一日から平成元年一〇月一日までの前記割合による遅延損害金三〇三万二三四三円及び同日現在における損害賠償債務の合計額一二一九万二二五八円に対する同月二日から支払い済みまで同割合による金員である。

3 抗弁は失当である。その理由は、一3記載のとおりである。

4  そうすると、乙事件における控訴人さきの請求は、右2の限度において理由があるが、その余は失当である。

第二丙事件

一請求原因1の事実及び被控訴人組合が昭和五六年九月一日以降一〇一号室を占有していることは当事者間に争いがない。

二一〇一号室の写真であることには争いがなく、その余の点については、原審証人池田克彦の証言により真正に成立したものと認められる<書証番号略>、原審証人池田克彦の証言、原審(丙事件)における控訴人石川竜二本人尋問の結果及び当審における控訴人石川さき本人尋問の結果によれば、一〇一号室は、床面積17.67平方メートルで、登記簿上は管理室として登記されている建物であること(床面積の点は当事者間に争いがない。)、一〇一号室には、和室が設けられていて宿泊は可能であるが、便所はなく、室内の北側壁面には、本件マンション全体のための火災報知機、共用部分の積算電力計、緊急時にエレベータの管理会社との連絡用の電話及び受付窓口などマンション管理に必要な設備が設けられていることがそれぞれ認められる。

三被控訴人組合は、昭和五六年九月一日ころ、實尚から、一〇一号室を無償で使用することの許諾を得たと主張し、原審証人池田克彦の証言中には、昭和五六年九月はじめころ、被控訴人組合の代表理事に選出された坂本茂樹ら三人の区分所有者らが實尚の自宅を訪ねて、今後は被控訴人組合において管理人を選んでやりたいと申し入れたのに対して、實尚は現在使っている部屋の荷物を出しますと答えた旨の供述がある。

しかし、成立に争いがない<書証番号略>、原審における控訴人石川竜二及び当審における控訴人石川さきの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、一〇一号室は、もともと控訴人さきが所有していた本件マンションの二階の一室(区分所有建物)を他に売却せざるを得なくなり、それまで同室に住まわせて本件マンションの管理業務の手伝いをさせていた熊本金五郎の転居先が必要になったことから、同人の転居先として本件駐車場と一体をなす平面の一部を囲い、その内部を整えることによって独立性を与えられた建物であり、被控訴人組合が、一〇一号室の占有を開始するまでは、右熊本が、控訴人さきの管理業務を手伝いながら居室として使用していたこと、被控訴人組合の一〇一号室の占有は、熊本が入院中で不在の時期に、控訴人さき及び實尚夫婦の立ち会いもないまま、被控訴人組合の役員らが、当時、同室内に置かれていた熊本の家財道具を一階の自転車置き場に運び出して開始されたこと、当時被控訴人組合の役員であった被控訴人永田、同じく役員であった訴外池田及び同溝口らは、被控訴人組合の設立当初から、一〇一号室は区分所有者らの共用部分であると主張しており、他方、實尚は、こうした主張に強く反発して憤慨していたことが、それぞれ認められる。

したがって、これらの事情のもとでは、当時、被控訴人組合が一〇一号室を使用するのは自らの当然の権利であると考えていた被控訴人組合と、一〇一号室が自己の専有部分であるとの認識を持ち、被控訴人組合の右のような主張に強く反発していた實尚との間に、前記供述のようなやりとりによる一〇一号室の使用貸借契約が成立したと認めることは困難である。また、他に實尚が、被控訴人組合に対し、一〇一号室の無償使用を承諾したと認めるに足りる証拠はない。

また、被控訴人組合は、一〇一号室の使用による利得が現存していないと主張するが、右に認定、判断したところから明らかなように、被控訴人組合は、対価を支払うことなく一〇一号室を継続的に使用し、これによってその対価に相当する利益を現実に受けていたのであり、このことは今後同じ条件のもとにこれを継続する場合においても同様であるから、被控訴人組合に過去の使用による使用料相当額の利得が現存し、将来の使用についても同組合がその利得を受けることが明らかである。

そうすると、被控訴人組合は、一〇一号室を使用するについて何らの権原も有していなかったというべきところ、同室の使用に関する前認定の事実と<書証番号略>によって認められる東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第三三八号事件における弁論の経緯を総合すれば、被控訴人組合が一〇一号室について自ら使用権原を有しているものとして無断で使用を開始したことには重大な過失があったといわざるを得ず、被控訴人組合は、同人が受けた利益に年五分の割合による利息を付して、控訴人らに返還する義務がある。

四ところで、實尚が、一〇一号室について、同人の占有支配を全く排除するよう方法での利用を容認したとは認められないことは前記のとおりであるが、一〇一号室の北側の壁面の積算電力計等の設備は、實尚自身がこの場所に設備したものであるから、同人は、本件マンションの管理を控訴人さき以外の者が行うことになった場合にも、その管理を行う者が右各設備を利用することが必要な限度で一〇一号室を利用することは当然受忍すべきである。そして、一〇一号室を仮に倉庫として他に賃貸したとしても、共用部分の積算電力計等の設備の付近には荷物等を積み上げることはできず、また、右共用設備の利用および保守管理のために賃借人以外の者の出入りが予想され、さらに一〇一号室から外部に出るためには本件駐車場を横切らなければならないことなどを考えれば、その賃料は、これらの制約がない場合と比べて相当に低額になるものと考えられる(ちなみに、原審証人田辺謙行は、その証言及び同人作成の<書証番号略>中の記載において、一〇一号室を臨時の倉庫として賃貸すれば、平成二年当時で一箇月七万五〇〇〇円ないし八万円で賃貸できる旨供述しているが、前記の各事実に照らし、容易に採用できない。)。

これらの諸事情を総合して勘案すれば、被控訴人組合が一〇一号室を占有利用したことによって得た利益は一箇月二万円であると認めるのが相当である。

したがって、被控訴人組合は、昭和五六年九月一日以降現在に至るまで一箇月二万円の割合による金員を不当に利得しているというべきであり、昭和五六年九月一日から平成三年七月一六日までのその総額は二三七万〇三二二円となる。

五以上によれば、被控訴人組合は、實尚の地位を法定相続分に応じて相続した控訴人らに対し、一〇一号室を明け渡す義務があると共に、不当利得の返還として、昭和五六年九月一日から平成三年七月一六日までの分として、控訴人さきに対し一一八万五一六一円並びにこれらに対する同月一七日から右完済に至るまで年五分の割合による利息を、控訴人良一及び控訴人竜二に対しそれぞれ各五九万二五八〇円及びこれに対する同月一七日から右完済に至るまで年五分の割合による利息を、平成三年七月一七日以降一〇一号室の明渡済みまでの分として、控訴人さきに対して一箇月当たり一万円、控訴人良一及び控訴人竜二に対しては各自につき一箇月当たり各五〇〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払う義務がある。

したがって、丙事件における控訴人らの請求は右の限度において理由があるが、その余の請求については、理由がない。

第三結語

以上の次第であるから、各事件について、先に判示したところに従って原判決を変更し、当審において追加された請求の一部を認容してその余を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、九三条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条、民事執行法三七条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小川克介 裁判官市村陽典 裁判長裁判官橘勝治は転補につき、署名押印できない。裁判官小川克介)

別紙第一物件目録

(一) 東京都文京区弥生二丁目三番地五五

鉄筋コンクリート造陸屋根六階建

床面積 一階(登記簿上)

129.70平方メートル

(現況) 431.80平方メートル

二階ないし四階

391.50平方メートル

五階 275.24平方メートル

六階 154.21平方メートル

(二) 右建物のうち一階駐車場部分

床面積 223.69平方メートル

別紙図面(一)のワ、レ、ソ、ツ、ウ、ヰ、ノ、ケ、ヌ、ル、ワの各点を順次直線で結んで囲んだ部分

(三) 右駐車場部分出入口所在

鉄柱ゲート

ただし、直径約7.5センチメートルの鉄柱三本を別紙図面(一)の①、②、③の各点に約八五センチメートルの高さに打ち込み、右各鉄柱間に長さ約六メートルの錠付鉄鎖を取り付けたもの

(四) 東京都文京区弥生二丁目三番五五所在

宅地 610.67平方メートルのうち、

西側土地部分 48.90平方メートル

別紙図面(一)のオ、ケ、ヌ、マ、ヤ、リ、チ、ク、オの各点を順次直線で結んで囲んだ部分

(五) 右(一)の建物の一階建物部分のうち別紙図面(一)のワ、レ、ソ、ツ、ウ、ヰ、ノ、オ、ク、チ、リ、ヤ、マ、ル、ワの各点を順次直線で結んで囲んだ部分

(六) 東京都文京区弥生二丁目三番五五

宅地 610.67平方メートル

(七) 右土地のうち別紙図面(二)において斜線で表示した部分 101.93平方メートル

別紙第二物件目録

(一) 東京都文京区弥生二丁目三番地五五

鉄筋コンクリート造陸屋根六階建

床面積 一階(登記簿上)129.70平方メートル

二階ないし四階

391.50平方メートル

五階 275.24平方メートル

六階 154.21平方メートルの内、一階床面積約297.71平方メートル

別紙図面(一)、イ、ロ、ハ、ウ、ヰ、ニ、ホ、ヘ、オ、ク、チ、リ、ヤ、マ、ル、ワ、レ、テ、ネ、ナ、イの各点を順次直線で結んで囲んだ部分

(二) 一棟の建物の表示

別紙物件目録(一)に表示の通り

専有部分の建物の表示

家屋番号 弥生二丁目三番五五の二七

建物の番号 一〇一号

種類 管理室

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 一階部分 17.67平方メートル

(三) 一棟の建物の表示

別紙物件目録(一)に表示の通り

専有部分の建物の表示

家屋番号 弥生二丁目三番五五の二六

建物の番号 一〇二号

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 一階部分 37.06平方メートル

(四) 一棟の建物の表示

別紙物件目録(一)に表示の通り

専有部分の建物の表示

家屋番号 弥生二丁目三番五五の二八

建物の番号 一〇三号

種類 倉庫

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 一階部分 51.54平方メートル

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